平成13年7月

衰退する農村の原風景・棚田を守ろう

 中国山地のあちこちに見られた山間棚田が、衰亡の危機に立たされている。かつては「耕して天に昇る」と表現された山間地の棚田が、高地や谷間の不便なところから放棄され、山に帰りつつある。萱葺きの農家、里山、棚田といった光景は、千数百年にもおよぶ農村文化を伝える日本の原風景だった。
 歌集「棚田残照」は長年、農村と深い関わりを持ち、その担い手である農家の男女の生きざまを記録しつづけた神田三亀男さんが、中国山地を歩き回り詠み綴った六百三十三首をまとめたものである。歌集「棚田」に続く第二作。滅び行く棚田、老い行くその守り手に対する深い哀惜と愛おしみを感じさせてくれると共に、営々と組み上げられた農村文化を一挙に切り捨て、放浪を始めている我が国の有り様を鋭く告発しているように思われる。
 近年、棚田の役割やその光景が脚光を浴び、語られるようにはなったが、これだけ棚田農家の側に立った読み物は珍しい。
 先日、作者にお会いした際、第三作目を用意されているとうかがった。更なるご健闘を祈るばかりである。
 注:購入希望者がおられるなら、あと100冊ばかりあるので、注文して下さいとのこと。
    頒布価格2500円(送料込み) 
    申し込み先:広島地域文化研究所(広島県安芸郡府中町桃山1丁目11−5)
            電話082−282−8787

語り継ぎたい被爆体験 原爆のない世の中をつくるために

原爆被害を学ぼうとする方々に、是非とも読んでいただきたい本がある。岩波新書の「原爆に夫を奪われて」である。著者は広島県安芸郡府中町にお住まいの神田三亀男さん。
この方は、県職員から日本農業新聞の広島版デスクなどを経て、今も著述活動を続けられている。親しくさせていただいてから十数年になるが、民俗学を修められている性か、実に博学。それでいて気さくで、常に庶民と交わり、等身大の発言をされている。世に名を成した人でなく、懸命に生きてきた庶民の記録やお年寄りの智恵を書き残そうと、ペンを握られている。会うたびに多くの示唆をいただいている。
「原爆に夫を奪われて」は、そんな神田さんが、被爆で夫を亡くした妻たちがどんな思いで生きてきたかを聞き書きしたものを、集大成した本である。この取材に当たった時の模様を、神田さんが「テープレコダーは使いません。マイクを向けたら本当のことを語ってくれませんよ。私は農作業しているおばあさんを訪ね、地べたに座り込んで話を聞くんです」と、話しておられたのを今でも覚えている。それだけに、妻たちの苦悩や、原爆の悲惨さが率直に庶民の言葉で語られ、読む人の胸を打つ。
神田さんならではの著書であり、聞き語りの見本のような力作といえる。
いま、広島の平和記念公園では赤や白のキョウチクトウの花が咲き始めている。8月6日の原爆の日を機に、ご一読を進めたい。